ニーズから遠くなった任天堂 VOL85
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任天堂は、10月の終わりに、2012年3月期の連結最終損益が200億円の赤字になるとの見通しを発表しました。 原因は、ハードとソフトの販売不振です。ハードは、1600万台の販売計画に対して、前期で307万台にとどまっています。ソフトの年間販売予定も 7000万本から、5000万本に修正されました。 この不振の原因は、
①携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」の販売が伸び悩んだ。 ②ソフト販売が低迷した。本体ゲームをけん引するような有力ソフトをタイムリーに販売できなかった。大手のゲームソフト制作会社は、スマートフォン向やSNS向により多くの開発者や資金を投入しはじめている。 ③携帯電話を通じた無料ゲームが普及してきた。
からと説明されています。このため、ハード価格の値下げ(2万5000円から 1万5000円へ)を行いました。 また、通信機能の充実などを行っています。新聞は、それでも、スマートフォンや交流サイト(SNS)を通じた ゲームの利用が拡大し、ゲーム専用機が苦戦していると報じています。
表向きの原因は、新聞の発表通りでしょう。しかし、その原因は、もっと根本的なところにあります。 それは、顧客のニーズの変化です。任天堂のゲームは、スーパーマリオに代表される子供向けのものが中心です。昨今は脳トレのように家庭や幅の広い層向けのものも伸ばしています。 この中で、子供向けのものは、少子化で市場は縮小する方向にあります。一方、幅を広げた大人向けの携帯市場は、スマートフォンに押されつつあります。このうち、大人向けの携帯市場については、
①消費に回せるお金が少なくなった。ゲームは楽しみたいが、前のようにお金は使えない。 ②ゲームを所有せず(購入せず)、使うという選択肢が現れた。ゲームは持つものではなくなった。 ③ゲームの面白さはゲームの中の仲間との直接コミュニケーションにあると知った。 すなわち、面白さは、リアルさではなく、つながりや会話にあることがわかった。
というようにニーズが変化しています。一方子供向けのゲーム市場では、3Dはニーズとして要求されなかったのです。
牛丼が240円で食べられるのに、ゲームが4000円も5000円もするのは、相対的に高い。高い理由は、ゲームの供給が、メモリーカードであるからです。メモリーカードは、速度が速い反面、ディスクより価格が高価です。 しかも、製造にコストと時間がかかります。一方、ネットゲームだと、ゲームはコストなしに供給できます。 多くのユーザにとって、ゲームはしたい(する)が目的で、所有したいわけではありません。これまでは、ゲームをする環境は、ゲームを持っている環境でした。ゲーム専用機か、PCでしかそれはできなかった。これが、スマートフォンという身近な道具で「する」ことができるようになった。しかも、所有しなくて良い。失くなることもない。 この選択肢の便利さをユーザーが知ってしまった。そして、オンラインゲームで培われた本物の人同士のコミュニィケーションがスマートフォンで利用できるようになった。これまでオンラインゲームにはまった人が、一般の人たちにその面白さを伝達しています。
こうして、ゲームに対するユーザのニーズが進化したのです。任天堂の提供する商品は、ニーズに遠くなってしまった。これまで、任天堂がニーズを作っていたのだが、(だから他社は勝てなかった)、ユーザがニーズを作るようになった。更に、任天堂は、ユーザのニーズに合わないことをしてしまった。それは、任天堂がゲームは、エンターテインメントであって、技術ではないといっていたのに、3Dという技術に走ってしまったこと にある。多くのユーザーは3Dでなくても良いと思っている。2Dでも十分に美しくなったし、3Dの映像は2Dでも見れる。もちろん、3Dには3Dのよさがあるが、2Dじゃだめというわけではない。面白ければ、2Dでも3Dでもよいわけです。
任天堂の今の敗因は、このようにニーズとの乖離にあります。もう一度原点に戻り顧客のニーズを把握することが売上向上には必要と思われます。
(VOL85 ニーズから遠くなった任天堂)
追記>2011年11月25日の新聞で、任天堂の3DSの売れ行きが上向いてきていると報道されました。11月は、10月に比べて10万台増の34万台が売れています。その理由は、スーパーマリオ 3Dランドの発売にあると解説されています。私には、それより、任天堂は、子供にゲームを許可するお母さんを大事にしているので、お母さんに人気のグループ 「嵐」のTVCMが効いているようにも思います。ここは、戦略的です。一方、このやり方は、従来の路線であり、スーパーマリオは子供路線なので、大人の購買を呼び込みません。その分販売期待台数は減少します。このままでは、任天堂の3DSがこれまでのDSの販売台数に匹敵することはないでしょう。やはり、大人向けの市場のニーズをどう扱うかが減少分を取り戻す鍵になります。
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出水秀治 2011/11/28 09:16 |